理事長挨拶

植田誠治

 日本教育保健学会理事長


 植田 誠治
(聖心女子大学現代教養学部教育学科)

ご挨拶

第7期理事長に選出されました植田でございます。

日本教育保健学会は、1994年に発足した日本教育保健研究会の10年間にわたる活動を経て、2003年に、「学問の自由を尊重し、教育保健に関する学術研究及び実践の発展に資すること」を目的として創立されています。

教育保健とは何かをめぐっては、これまで様々な検討がなされてきています。詳細なる検討結果は、刊行されてきた学会年報等の報告に任せるとして、一学徒として、私が教育保健学研究の意義を理解できたのは、1960年代に唐津秀雄氏によって行われた「板書視力に関する研究」を知った時でした。氏は教室の後ろのほうに座る子どもは、どれくらいの視力で、板書された字はどれくらいの大きさならよいのかを実証しようとしました。この研究は、教育活動を子どもたちにとって健康的で豊かなものにする高い応用性を持つものといえます。もちろん学校では、健康診断で視力検査を行い、視力異常の有無を判別しますが、この研究は、その視力検査とは相対的に異なる視座で視力を測ることの必要性と意義を世に問うてもいます。

一方、極めて個人的な経験となるのですが、まだ将来の方向も十分定まっていない大学2年生の時に、日本教育保健研究会の初代会長であった森昭三先生の「学校保健学概論」を受講しました。そして授業の中で、本学会理事長も務められた数見隆生先生の著書『教育としての学校保健』に出会うことになります。失礼ながら、タイトルに違和感を持ったというのが正直な感想でした。「教育としての」というところに対してです。読み進めていくうちに、様々な事例を通して、学校で行われている保健的な活動が、管理的や非教育的なものでなく、本当の意味での教育的な活動となっているものであるか、またそれらが、真に子どもの健康を守る活動、子どもの発達を保障するための活動、子どもの保健認識や実践力を育てる活動になっているかを深く問うものであり、いわば「目からうろこ」でした。

これらからもわかるように、教育保健学の研究アプローチの一つは「様々な教育的現実に対して保健学的な分析や検討を加え、その科学的解明をしたり、課題解決の提起をしたりする」ことであり、もう一つは「子どもたちの様々な保健的現実や学校の保健活動に対して、教育学的視座からの課題解決や実践の方策を導く」ことです。

さて、今期では、近藤真庸前理事長の提唱されていた「実証的・実験的実践を研究活動の柱におく」ことの継承はもちろんですが、主に次の点を目標としたいと思います。

第一に学術団体として、当然のこととはいえ、学会誌である「日本教育保健学会年報」を発展させたいと思います。先に示したアプローチの研究であれば、積極的に掲載し、誌上での活性化を図りたいと思っています。本学会の目的にも謳われている「学問の自由を尊重」していきます。

次に、社会的説明責任であり、とりわけオンラインを活用した情報発信に努めたいと考えています。

教育保健学の研究は、現実的な課題解決といった側面とともに、子どもたちの将来、そして子たち自身が創り出す新たな社会にも繋がる未来志向の側面も持っています。教育、保健、福祉、医学、発育・発達、環境など、多様な分野の方々の協力が必要です。会員すべての方々にご協力をお願いしますとともに、本学会の新たな会員を歓迎いたします。